ビジネスメールや商談の場面で、相手からの依頼や提案を断るとき、直接的に「できません」「断ります」と伝えるのは角が立ってしまいます。
そんなときによく用いられる表現が「見送らせていただきます」です。一見シンプルなフレーズですが、意味を正しく理解し、適切な場面で使うことが大切です。
本記事では「見送らせていただきます」の意味、使い方、例文、類語表現、そして誤用しやすいポイントまで徹底的に解説します。
見送らせていただきますの意味と基本的な使い方
「見送る」が持つ本来の意味
「見送る」という言葉には複数の意味があります。
一般的には「去っていく人を目で追うこと」「葬儀で故人を送り出すこと」といった場面で使われます。しかしビジネス敬語としての「見送る」は、「実行を控える」「採用しない」「断念する」といった意味で用いられます。
例えば、新規企画の提案を社内で検討したものの、今回は採用しない場合に「この企画は見送る」と表現します。
この「見送る」に謙譲表現を加えたものが「見送らせていただきます」なのです。
「させていただく」による敬語表現
「させていただく」は、自分が行う行為を相手に許可してもらうニュアンスを含む謙譲語です。
つまり「見送らせていただきます」と言うことで、「今回は見送るという判断をさせていただきます」という、相手に敬意を払いながら断る形になります。
単なる「断ります」よりも角が立ちにくく、柔らかい印象を与えることができます。
「見送らせていただきます」が使われる典型的な場面
- 取引先からの提案を採用しないとき
- イベントやプロジェクトへの参加を辞退するとき
- 新規取引や契約を控える場合
- 採用選考で不採用を伝えるとき
このように「今回は実施しない」「採用しない」という意味合いで、ビジネス上の断りに幅広く用いられています。
ビジネスでの「見送らせていただきます」の活用例
取引や商談を断るときの例文
- 「ご提案いただきました件につきましては、社内で検討いたしましたが、今回は見送らせていただきます。」
- 「大変魅力的なお話ではございますが、弊社の方針上、今回は見送らせていただきます。」
ここでは「今回は」という言葉を添えることで、将来に可能性を残すニュアンスを含めています。
採用・選考結果で使われる場合
人事部が応募者に不採用通知を出すときにも用いられます。
- 「慎重に選考を重ねました結果、誠に残念ながら今回は見送らせていただくこととなりました。」
この場合も、「不採用」というストレートな言葉を避け、相手への敬意を保ちながら伝えるために使われます。
メールで使うときの定型文パターン
ビジネスメールでは以下のような文例が多く見られます。
- 「せっかくご提案いただきましたが、今回は見送らせていただきたく存じます。」
- 「社内で検討しましたが、ご期待に沿うことができず、見送らせていただきます。」
相手の労力や気持ちに配慮するフレーズ(「せっかく」「ご期待に沿えず」など)を組み合わせると、より丁寧な印象になります。
「見送らせていただきます」の類語・言い換え表現
「辞退させていただきます」との違い
「辞退」は、自分から進んでお断りするニュアンスが強い言葉です。招待や依頼を受けた際に、自ら断るときに使います。
- 「今回は参加を辞退させていただきます」
一方「見送る」は、社内で検討した結果や状況の判断で控えるニュアンスがあります。より柔らかく、間接的な断りに向いています。
「差し控えさせていただきます」とのニュアンス比較
「差し控える」は、発言や行動を控えるときに使う言葉です。質問への回答を避けたい場合などでよく使われます。
- 「その件についてのコメントは差し控えさせていただきます。」
「見送らせていただきます」は「実施を断念する」ことに特化しているため、目的によって使い分ける必要があります。
「今回はご遠慮させていただきます」との使い分け
「遠慮させていただきます」は、ややカジュアルな断り方で、日常会話でも使われます。
- 「今回はご遠慮させていただきます」
ただしビジネスの正式な文章ではやや軽く感じられるため、フォーマルな場面では「見送らせていただきます」の方が適切です。
誤用に注意!「見送らせていただきます」のよくある間違い
「見送りさせていただきます」は誤用?
「見送る」はラ行五段活用なので、「見送らせていただきます」が正しい表現です。「見送りさせていただきます」という言い方は、誤用とされることが多いので注意しましょう。
使う相手やシーンでの不自然さ
あまりにも身近な相手に「見送らせていただきます」と言うと、かしこまりすぎて不自然に感じられることもあります。友人や同僚に対しては「今回はやめておきます」といった自然な言い方に置き換えましょう。
断る理由を添えるべきケース
ただ「見送らせていただきます」とだけ伝えると、冷たい印象を与える場合があります。特にビジネスメールでは「予算の都合で」「他の案件を優先するため」など、簡単にでも理由を添えると誠意が伝わります。
見送らせていただきますこんなときどうする?
もっと柔らかく断りたいときの表現は?
- 「またの機会にぜひお願いしたく存じます」
- 「今回は見送らせていただきますが、次のチャンスがあれば前向きに検討いたします」
といった表現を添えることで、断りつつも前向きな姿勢を示せます。
メールで冷たい印象にならない工夫は?
感謝の言葉を前置きにするのが効果的です。
- 「貴重なご提案をいただきありがとうございます。社内で検討いたしましたが、今回は見送らせていただきます。」
こうすることで、相手が「無視された」と感じにくくなります。
上司や取引先に対して使うのは失礼?
結論から言えば失礼ではありません。むしろフォーマルな断り方として適切です。ただし、相手が特に重要な人物である場合は「誠に恐縮ですが」「ご期待に沿えず心苦しいのですが」といった言葉を添えると、より丁寧になります。
言い換えフレーズをどう選ぶべき?
- 柔らかく → 「辞退させていただきます」
- より正式に → 「差し控えさせていただきます」
- カジュアルに → 「遠慮させていただきます」
と、相手やシーンに合わせて使い分けることが大切です。
英語ではどう表現すればいい?
英語で同じニュアンスを伝えるには以下のようなフレーズが使えます。
- “We have decided not to proceed at this time.”(今回は進めないことにしました)
- “Unfortunately, we must decline your offer.”(残念ながらご提案を辞退いたします)
まとめ
「見送らせていただきます」は、相手に敬意を示しながら断りを伝える便利なビジネス表現です。単に「断ります」よりも柔らかい印象を与え、相手との関係を損なわずに済むのが大きなメリットです。
ただし、理由や感謝の言葉を添えること、誤用を避けることが大切です。場面に応じて類語と使い分けながら、丁寧なコミュニケーションを心がけましょう。